ピロリ菌感染は大腸ポリープや大腸がんのリスクになる!?
- heiwamed0001
- 2月26日
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交雄会新さっぽろ病院 院長 渡 二郎
胃に生着するヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)。このピロリ菌は、慢性胃炎や胃・十二指腸潰瘍の原因です。胃・十二指腸潰瘍は、心窩部痛や吐・下血などの症状を引き起こしますが、慢性胃炎の場合は、特徴的な症状を発症することなく、ほとんど無症状に経過します。胃がんは、この慢性胃炎に伴う萎縮性胃炎を背景に発症してきます。最近は、ピロリ菌に未感染でも稀に胃がんが発症することが報告されていますが、胃がんの90数%はピロリ菌の感染と関連しています。そのような理由から、できるだけ早い時期に胃内視鏡検査を受けてピロリ菌のチェックを行い、ピロリ菌を除菌することをお勧めします。50 歳以下で除菌すると、胃がんの発症がほぼ抑制できることが知られています1)。
最近、ピロリ菌は大腸ポリープや大腸がんの発症リスクになることも報告されてきました。実は、過去の論文を紐解くと2000年代前から両者の関連性が報告2)されていたようですが、不勉強のため全く知りませんでした。私が、2002年に米国の学会で大腸ポリープの発表をした際に、アメリカ人から「日本人はピロリ菌の感染者が多いけど、大腸ポリープと関連性を調べましたか?」と質問された記憶があります。その時には、この先生は何を言っているのか?と質問の意図が全く理解できませんでした。ところが、それから20年の時を経て世界から多くの論文が発表され、最近ではメタ解析まで発表されています。今になって、あのアメリカ人からの質問の意図を汲んで研究しておけばよかったな、と後悔しています。
2024年にアメリカから、ピロリ菌感染者は未感染者に比べて大腸がんの発症率が有意に高いことが報告されました3)(図1A)。さらに、除菌治療をされた患者では、その発生率が低かったという興味深い論文です(図1B)。遡って、文献を探してみると2019年にも、ピロリ菌感染は大腸ポリープの発生に関連し、除菌によってポリープの割合が減少していたとする報告もありました4)(図2)。


では、何故、胃に生息するピロリ菌が大腸ポリープや大腸がんの発症と関連するのか?その原因は、ピロリ菌による萎縮性胃炎によって生じた高ガストリン血症や腸内細菌叢の変化が腫瘍形成を助長する、など諸説あるようですが良く解っていないようです。
何れにしても、ピロリ菌の除菌は、胃疾患のみならず大腸ポリープや大腸がんの予防に繋がるということでしょうね。
1) Asaka M. Int J Cancer 132; 1272-6, 2013
2) Thorburn CM, et al. Gastroenterology 115; 275-80, 1998
3) Shah SC, et al. J Clin Oncol 42; 1881-89, 2024
4) Hu KC, et al. Clin Infect Dis 68; 2105-13, 2019